――あれは、わたしの身の上の予言ではなくて、その運命は、いや[#「いや」に傍点]なおばさんだの、意気地のない浅吉さんだのが、代って受けてくれてしまったのではないか。今に始まったことでない弁信さんの取越し苦労――それを他事《よそごと》に聞いていたのが、追々にわが身に酬《むく》って来るのではないか。それがために、お雪は書いても届ける由のない、届いても見せるすべのない盲目法師《めくらほうし》の弁信に向って、ひまにまかせては手紙を書いているのは、ただこの心の不安と苦悶《くもん》とを、他に向っては訴える由もないからです。
 つい今まで、晴れ晴れしていたお雪ちゃんの心が、また暗くなりました。
 ぼんやりと、見るともなしにふすま[#「ふすま」に傍点]を見つめていた眼から、涙がハラハラとこぼれました。ついに堪《こら》えられなくなって、面《かお》もこたつ[#「こたつ」に傍点]のふとん[#「ふとん」に傍点]の上に埋めて、なきじゃくってしまいました。
 だが、自分ながら、なんでそんなに悲しいのだかわかりません。身に覚えがない、何も知らない、と自分で自分をおさえつけていながら、それがおさえきれないで泣いてしま
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