こうか――ということであったが、若い衆は旅の疲れもあるから、ゆっくり寝かしておいてやれ、近いところだということだから、一人で行って見てやれ――という気になりました。

         九

 講釈場へ案内されて行って見ると、かなりの席で、かなりの入りがあります。
 大看板には「南洋軒|力水《りきすい》」と筆太《ふでぶと》にしるしてある。当時、江戸で有名な講釈師といわず、その下っぱにいたるまで、お角は名前を知っているし、また親しく会ってもいる。南洋軒力水なんていうのが、誰の社中の化け物か、そんなことを詮索《せんさく》に来たのではない。
 前座はどうだったか知れないが、幸いにしてお角の臨席した時は、かなり時間もたっていた時だから、真《しん》を打つ例の「南洋軒力水」が高座に現われて間もない時でありました。
「あれが南洋軒の太夫《たゆう》さんです」
 講釈の太夫さんもオカしいが、お角はいわゆる太夫さんの面《かお》よりも、場内の模様をズラリと見廻しました。
 席の建前《たてまえ》から、お客様といったようなものを一わたり見渡してから、改めてまた太夫さんの方を見直すと、これは浪人風の態度の男で、黒
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