後ろでございますよ」
 可愛らしい小女の女中が、突然にこういって案内をする。
「講釈?」
とお角さんが聞きとがめました。なるほど、ここは東海道筋の目貫《めぬき》と言い、箱根、熱海の温泉場の追分のようなものだから、湯治場かせぎの講釈師が溢《あふ》れそうなところだ。
 お角は、そこで講釈を聞いてみようという気にはならなかったが、講釈の席へ入ってみたいという気にはなりました。
 この女は、転んでもただは起きない女であります。たとえば往来を通りながらも、見どころのありそうな子守女を発見すると、その親許までつきとめてみたがる女であります。今夜も宿《やど》のつれづれに、宿《しゅく》を散歩してみようかという気になったのも、小田原宿の夜の気分に浸って、そうして旅心を漂わせてみようというのでもなく、何かしかるべき商売柄の掘出し物にでもありつき得れば、ありつき得なくても元は元だが、どこかに抜け目のない心の働きが、自然とそんな思い立ちをさせるものと見えます。
 講釈――と聞いて、講釈そのものには興味は催さなかったが、さて、この土地の席亭の模様はいかに、客種はいかに、講釈といううちにも一枚看板でやるのか、また
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