あやかったわけでもなかろうが、兵馬は、急に立ち上る気にもなれないものと見え、包みを解いて、中から取り出したのが信濃国の絵図。それを縁台の上へ繰りひろげて、あれからこれと、指で線を引いてながめている。
そこへ神主のような人が来たから、兵馬も、ちょっと身を起して、あいさつをする。
神主なかなかなれなれしく、炉辺へ腰をおろして話しかけるものだから、兵馬も、
「いったい、この物臭太郎というのは何です」
「物臭太郎でございますか――それをいちいち説明して上げるよりも、ここに絵巻物がございます」
神主は頼まれもしないのに、立って床の間から一巻の絵巻物を持って来て、
「物臭太郎物語――ね、これでございます、なかなか名文章でございますよ、竹取、うつぼ、源氏物語などとは違った面白味がございます。滑稽味のある古文では、ここらが第一等でござんしょう。日本人にはいったい、滑稽味が乏しいなんて言う人もありますが、どうして、この辺になると、古雅で、上品で、そうしてたまらない可笑味《おかしみ》がございます。ひとつ、読んでお聞かせ申しましょう、ようござんすか、お聞きなさい」
神主はこういって兵馬の前に、その絵
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