のだな」
「有るべきはずがない」
兵馬は内心苦しく言い切ると、仏頂寺が、
「ならば、事は簡単だ。丸山、もうこれから中房まで行くがものはない、浅間へ引返そうではないか」
「そういった理窟だな」
丸山勇仙が、空うそぶくような調子で返答しました。そこで仏頂寺は、事改めて女の方を向いて、
「ねえ、君、君はどうしても一応はその抱え主まで、わびをして帰らなければならん。そのおわびには不肖ながら、われわれが立会って、今後にむごいことのないようにして上げる。ここからは乗物か何かあるだろう、善は急ごうじゃないか、君の方に異存がなければ、これからわれわれと一緒に浅間へ帰ろう」
「どうぞ、お連れ下さいまし」
女はわるびれずにいいました。仏頂寺はそこで、丸山の方に腮《あご》を向けて、
「丸山君、君ひとつ、そこらを駈けまわって、乗物を一挺探して来ないか、何でもいい、人間の乗れるものなら何でもさしつかえない」
「よろしい」
丸山勇仙は命をかしこんで、さっさと物臭太郎を外へ飛び出してしまいました。
そこで仏頂寺弥助が、改めて兵馬の方に向って、
「君、宇津木君、抜けがけをしちゃいかんよ、われわれとても、君の
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