ら、そこまで連れて来てもらおうか」
「旦那様は、一緒においでなさらねえのかね」
「ああ、拙者は一足先に待っている」
「ようござんす、ちょうど、この馬も等々力まで行く馬ですから、穂高へは順でございます。では、旦那様、物臭太郎《ものぐさたろう》あたりでお待ちなすって下さいまし」
「物臭太郎とは?」
「穂高の明神様の前のところでございます、物臭太郎でお待ち下さいまし」
「では、そうしよう」
物臭太郎というのが奇抜に聞えましたけれど、それは何か因縁があるのだろう。その因縁はここで問うべき必要はない。指示された通り穂高神社を標準として、物臭太郎を目的としていれば差支えない。
兵馬は、子供に若干《いくらか》の手間賃を与えて、またも悠々閑々《ゆうゆうかんかん》として、松本平へ下りました。
これとても、おぞましいことです。見殺しにする気なら、見殺しに殺しつくすがよい。
最後まで助け了《おお》すつもりならば、人の手や、馬の力を借る必要はない。あくまで自分の背に負い通して行くこと。
ここに至って、切れ味がまた鈍《にぶ》る――所詮、これは仕方がないと思ったのでしょう。
穂高神社の物臭太郎をたずね
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