旧家が何です、甲斐の国に並ぶもののない家柄が何です、何十代というもの、積み貯えられた金銀財宝が何です。みんなそれは浅はかな人の慾をそそり、血で血を洗わせる悪魔|外道《げどう》のまやかし[#「まやかし」に傍点]ではありませんか。そんなものがあるために、親が子にそむきます、兄弟がたがいに相愛することができません。人間のこの、普遍な愛情をさまたげるものは系図です、家柄です、それと財産です、女にとっては容貌です。まあごらんなさい、火という大明王が、その小さな愛着と、未練と、貪欲《どんよく》とを、木葉のように、広大なるつぼ[#「るつぼ」に傍点]の中に投げ入れて、微塵の情け容赦もなく、滅除し、済度して行く、あの盛んな光景を――」
「お嬢様、それは間違っております、出発点が間違っていますから、それで結論がまた間違ってしまいます、間違ったなりに徹底して、さながら一面の真理でもあるかのように聞えるのが、外道《げどう》の言葉だと私は思います。愛というものは――慈悲と申しても同じことでございますが――火のように烈しく人を焼き、水のように深く人を溺らせるものではございません。慈悲と申しまするものは、春の日のよ
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