か」
「しかし、時勢が時勢でございますからなあ。それに、執権がボンクラ大名と違って、名にし負う水野越州でございますから、直ちにそれを採用して断行することになり、尾州家を呼び出し、将軍の御前において、水野越前守殿自ら、この趣を尾州家に申し入れようとの段取りとなりました」
「さあ、そこだ……そこで尾州の奴、何と出た……様、様、様、様」
 道庵がここで、あわわをするように口を抑《おさ》えました。僧形の同職は少しもひるまず、
「左様、その時、尾州を代表して、江戸城へ罷《まか》り出でたものが、尾州の家老鈴木千七郎殿でございました」
「なるほど、こいつは大役だ、家老、骨が折れるだろう、何しろ天下の将軍の面前で、水野越前守を向うに廻すんだからなあ、この役は大役だ、道庵が買って出てもいい役だ」
 道庵が一方ならず力瘤《ちからこぶ》を入れましたが、僧形の同職は相変らぬ調子で、
「そのお召しによって、江戸幕府へ罷《まか》り出でた鈴木千七郎殿は、尾州家の家老でございましてな」
「そりゃ大抵きまっているだろう、ヘタな人間は出せないからな、家老でも、大石内蔵助どころでなくっちゃあ勤まらねえ、九太夫なんぞをやって
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