生、道庵先生!」
彼は相変らず、声高く叫んで飛び走りましたが、徒《いたず》らに、通る人の驚動と、指笑とを買うに過ぎません。
ここに於て、米友は確かに血眼《ちまなこ》になっている。血眼にはなってはいるけれども、狼狽《ろうばい》ということはないのです。その証拠には、例の唯一の武器たる杖槍《つえやり》も、ちゃんと肩にかついでいるし、携帯の荷物も、懐中に入れた精製の熊胆《くまのい》も、決して取落してはいないのです。
「どうも仕方がねえ、運の悪い時には悪いもので、物が行違いになる時には、行違いになるものだ、おいら一人がやきもきしたって、助かるものは助かる、助からねえものは助からねえんだ」
米友にもまた聡明がある。人力の及ぶべきところと、及ぶべからざるところとを、このごろ、ことにお君を殺してから、つくづくと悟ったもののようです。
ですけれども、天性の正直から来るところの短気は、持って生れたもので、急にどうすることもできません。
血眼になって、あせりきって、歯噛みをして、地団太を踏みつづけながらも、どこか心頭の一片に鉄の如きものがあって、あらゆる短気と、焦燥《しょうそう》とを圧えきっている
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