、ウンと稼《かせ》いでな、給金を貯めてな、それで新家《しんや》の一つも建てて納まることを考えなくっちゃいけねえ。そうなると、相応のおかみさんが欲しくなるだろうが、そこだてなあ……女房というやつは、持つがいいか、持たねえのがいいか、ことさらお前の身の上について考えてみると、何とも言えねえ――持つなら、いい女房を持たしてやりてえがなあ」
どういう気まぐれか、このかりそめの場で、七兵衛は、与八のために、将来の女房の心配まではじめたが、やがてかたわらの絵馬を手にとりながら、
「いや、よけいなお節介《せっかい》で長話をしてしまった、人間はあとのことを振返らねえで、先のことを考えなくちゃいけねえ」
と言いながら、例の絵馬《えま》をパリパリと引裂いて、炉の中に投げ込んでしまいますと、絵具のせいか、火が血のような色をして燃え立ちました。
七兵衛は立ち上りながら、絵馬の燃え上る火の色を見ていいました。
「若い衆さん、お前、人間の首の梟物《さらしもの》を見たことがありなさるかい。見ない方がいいねえ、わけて出世前の者は、そんなところは見ない方がいいがねえ」
と言いました。
「まだ、そんなところを見たこと
前へ
次へ
全373ページ中261ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング