から、どうか、勘弁しておくんなさいまし」
「うん――」
と与八は、おとなしい眼を不審の色に曇らせて、改めて七兵衛の姿を見やり、見おろし、
「お前さん、狂犬《やまいぬ》に吠《ほ》えられたとお言いなすったね」
「ああ、どこの犬だか知らねえが、この上の方に、おっそろしい強い狂犬がいるよ」
「お前さん、ありゃ狂犬じゃありませんよ」
「え、どうして」
「ありゃ、ムクですよ」
「ムク……」
「ムクが吠えたんですよ」
「ははあ、なんにしても、すっかりオドかされてしまいましたよ」
「お前さん」
 与八は、しげしげと七兵衛の姿を見ているから、七兵衛は少しバツが悪く、
「何だい」
「お前さん、何か悪いことをしたろう」
「えっ」
「何かお前さん、悪いことをして来たね」
「飛んでもねえ、私は何も悪いことなんぞをする人間じゃあねえ、この通り、六郷下《ろくごうくだ》りの氷川《ひかわ》の筏師《いかだし》だよ」
「いけねえ、お前さん、何か悪いことをして来たから、それでムクに吠えられたのだ」
「冗談《じょうだん》いっちゃいけません、犬に吠えられる奴が、みんな悪い奴であった日にゃ、夜道をする奴はみんな泥棒……だね」
「犬
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