して聞き取ることができるのであります。
 そこで与八は、何か本家の方に非常が起ったのだと胸を打たれました。その非常の程度はわからないが、ああしてムクの声が聞えたことそれだけで、人間の騒ぐより以上の何事かが突発して来たものと見て、さしつかえないのであります。そこで与八が胸を打たれて心配しました。
 心配したけれども、しかし絶望はしません。
 ムクの吠えたのが非常を示すと共に、ムクの存在ということが、非常な心強さを与えるものであります。何となれば、ムク犬が存することによって、幾多の人間が備えている以上の安心を、保証し得るからであります。
 ひとたび心配した与八は、二度《ふたたび》安心はしましたけれども、ともかく、ああして非常の暗示があってみれば、ここにこうしているわけにはゆかない。そこで本家へ取ってかえそうとして鈍重な身を起しかけた時、不意に裏口の戸があいて、そこから声もかけずに人が一人飛び込んで、また素早《すばや》くその戸を閉《とざ》してしまったことを知りました。しかしそれは鈍重な与八が身を起しかけた途端、その背後で起ったことですから、与八は、その入り込んで来た人の影をだに見ることができ
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