岸の水車小屋まで着いてしまいました。案内知った戸をガタピシとあけて、休ませておいた杵《きね》の間を通り、糠《ぬか》だらけの棚の板から、携えて来たブラ提灯《ぢょうちん》をつり下げ、そうして、炉の傍へ寄っておもむろに焚火をはじめて、それが燃え上るところに両手をかざし、目をつぶってどっしりと坐り込んでいると、戸一枚を隔《へだ》てた多摩川の流れが、夜の静かなほどに淙々《そうそう》たる響きを立てます。
 こんな晩だったな――そこで、与八はゾッとして、塞《ふさ》いでいた目を見開くと、運転を止めた水車小屋の荒涼たる梁《はり》から軒《のき》、高いところは一面の蜘蛛《くも》の巣がすっかり粉をかぶっている。
 そこに一本長い女帯が、だらしなく解けほごれて、蛇のように横たわっているではないか。
 それ、そこに、緋《ひ》の襦袢《じゅばん》が。おお、女が一人歯を喰いしばって身をふるわせている……あああ、結いたての島田の髪があんなに乱れちまった――あれでは帰れまい、帰されもすまい。
 女も女だ――と寛怠《かんたい》な与八が歯噛みをする。
 再び目をつぶって、長い鉄火箸《てつひばし》をとって、盲《めくら》さがしに火
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