「あ、わしもお正午《ひる》ごろ、その触れを聞きましたよ」
「そう、それじゃ、お前さんの方が、よく知っているでしょう、用心をするに如《し》くはないから、気をつけて下さい」
「はい」
「それでは、お米の方をたのみますよ」
と言ってお松が出て行きました。やっぱり、例のイヤな絵馬の風呂敷包を持って行こうと言わないのは、与八にしかるべく処分を任してしまったつもりなのでしょう。
 与八は、その風呂敷包を抱えて、道場を出で、高い石段を下って、街道筋の方へ出ながら、
「そうだっけな、何か江戸で悪いことをした奴があって、それを青梅《おうめ》の裏宿《うらじゅく》まで追い込んで、そこで姿を見失ってしまったが、どうもこの沢井あたりへ逃げ込んだにちげえねえということで、今日のお正午《ひる》ごろ、今お松さんがいったような触れがあったっけな……してみると今夜は、水車小屋へ泊らねえがいいかな、こっちの家へ泊った方が、みんなの安心になるかも知れねえ。だがこっちはこれで近所も近いし、お松さんという子は度胸があるから……」
 与八は、こんなことを考えながら、高い石段を下って街道筋へ出で、崖道《がけみち》を下って、多摩川の
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