西郷吉之助というお方でございますよ」
「西郷……どこ[#「どこ」に傍点]の奴だ」
「薩州藩の豪傑でございます、それが、あなた、みんな糸をひいては江戸の市中を今のように騒がせ、追っては江戸の市中を焼き払おうと企《たくら》んでいる親玉でございますね、薩摩の西郷というのが……」
「怪《け》しからん」
神尾主膳にもまた、多少は、時勢に憤るの気概があるのかも知れません。
「あんまり、西郷西郷って、人が騒ぐもんですから、いったい、西郷って、どんな人間だかひとつ見ておいてやろうって、こう思いましたもんですから、一日あとをつけてみましたんでございます」
「お前が、その西郷という男のあとをつけてみたのかい」
「左様でございます、ただ、薩摩の人が西郷西郷っていうばかりじゃございません。ドコへ行っても、誰に聞いても、西郷はエライ、西郷は大きい、西郷は英雄豪傑だと、西郷の独《ひと》り舞台のようにばっかりいうものですから、今度はひとつ、その西郷どんというのを見てやりたいと思いました」
「どんな奴だ」
「そりゃ、わっしどもが見ても、たしかに凡人じゃございません」
「そうか、ふかし立て[#「ふかし立て」に傍点]の
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