あ。碁でもやる気になれば、まだ頼もしいんだが」
 そこで主膳は、満腹の上に、また何かを食べさせられている、やむなく箸《はし》を取るような気持で、身を起してお絹の部屋へ行こうとする時、やはり庭先へパサと音がして、天から物が降って来たように、縁の上まで落ちかかったものがありました。
 これは凧《たこ》ではない。凧でないことは、主膳もとうに心得ていて、立ち上りながら、
「やあ」
と言いました。
「御免下さいまし」
と縁に手をついて挨拶したその人は、裏宿《うらじゅく》の七兵衛であります。
 七兵衛のことだから、天から降ったか、地から湧いたか、屋根裏から落ちて来たか、井戸の底から安達藤三をきめこんで来たか、それがわからないところが、七兵衛の七兵衛たるゆえんかも知れない。
 主膳も、その辺は、とうに心得ているから、凧のひっかかったほどに、興味も感ずることなく、
「まあ、上れ」
 自分も再び腰を据《す》えて、時にとっての相方《あいかた》に、多少の張合いを持つことができたようです。
 例によって旅装《たびよそお》いの七兵衛は、そこへ腰をかけたなりで、煙草を吹かしながら、話がこんなことに進んで行きました
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