と、感情と、文字とを崩さないところだけは取柄《とりえ》でしょう」
「ひとつ、あなたの詩吟をお聞かせ下さい、ここで……幸い、その胡笳の詩を最後までおうたい下さい」
「やってみましょうか」
そこで駒井がこころもち先に立ち、白雲が少しおくれて歩きながら、御所望の詩吟にとりかかろうとして、
「では、まず、淡窓流《たんそうりゅう》で一つやってみることにしましょう」
「お待ちなさい、淡窓流というのは何です」
「ははあ、それは詩吟の一つの流儀です。御承知でしょう、九州の広瀬淡窓によって起された調子なのです」
「なるほど」
「唐音のことは暫くここに論ぜず、朗詠のことも暫く置き、ちかごろでは、この淡窓流と、それから、もう一つはそれと相対して山陽流というのが、書生の間に行われます」
「そうですか」
「その間に、肥後に起って面白い一つの吟じ方がありますが、まあ近ごろ流行の吟声としては、淡窓流と、山陽流と、二つでしょう。どちらも特徴があって、さながら、淡窓と、山陽との、性格を現わしているようです。淡窓を呂《りょ》の黄鐘《こうしょう》とすれば、山陽のは律《りつ》でしょう。一《いつ》は温雅にして沈痛、一は慷慨に
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