さまよい出した岡本兵部の娘。
 暗いところの砂浜を西に向って、茂太郎が走り出した通りの道を、さまよい歩きながら、
「お帰りってば」
 この娘は、茂太郎が竜燈《りゅうとう》の松にのぼって歌をうたい、それから西に向って走り出した最初の時から見ていて、追わなかった娘であります。
 晩餐《ばんさん》の時、金椎《キンツイ》が大きな不安の色を以て、筆談で念を押した時も、あの子に限って大丈夫よ、と信任を置いて打消した娘であるのに、今になって、その名を呼びながら、帰れ帰れと、さまよい出したのは、何かしら不安に襲《おそ》われて、堪え難かったからであろうと思います。
 陸も、海も、暗く、層々と押寄せて来る波がしらだけの白いのが見えます。
 両袖を胸に合わせて、すっきりした体を両足に載《の》せ、爪先立って早足に砂浜を走りながら、岡本兵部の娘は、
「ホ、ホ、ホ、ホ……」
と、何か淋しそうな思出し笑いをして、
「おかしいじゃありませんか、昨日《きのう》、漁師たちが造船所で話をしているのを、そっと聞いていると、わたしのことを、あれは駒井の殿様のお妾《めかけ》じゃないか知ら、きっとそうに違いない、なんて、まじめで噂
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