気が絶えている。
この人は、長い間、こうして火のない炬燵によりかかって、うつらうつらとしているのだ、かわいそうに……
お雪ちゃんは、済まない心持になって、炭取を下に置くと、十能だけを持って、自分の部屋へ取ってかえしました。そうして、自分の炬燵から火種をうつそうとしてみたが、これもあいにく、小指ほどの塊《かたまり》と、蛍ほどのが総計五個もあるぐらいで、とてもこれでは、他の火勢を加える足《た》しにならないとあきらめて、でも、その五個ばかりの火を、丹念に十能の上に置いたまま、その十能を大事に持って、三階の梯子段を下におりてゆきました。土間の炉辺まで行って、烈々たる炭塊を十分に持ち来らんがためであるに違いない。
残された竜之助は、この時、クルリとこたつ[#「こたつ」に傍点]の方へ向き直って、やぐら[#「やぐら」に傍点]の上へ両肱《りょうひじ》をのせて、てのひらで面《かお》をかくして、じっとうなだれてしまいました。
こうしている姿をごらんなさい。心は無心でも、姿そのものが何を語っているか。
ああ、おれはもう、生きることに倦怠した……とうめいているのか。
生きていることが不思議だ……と
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