しかし、がんりき[#「がんりき」に傍点]の身になってみると、着物を着るよりも、帯をしめるよりも、眼に見える醜態を隠してもらうよりも、先以《まずもっ》て、一杯の水が欲しかったのでしょう。
 決して、お角の腹を立てるように、抱かればおぶさるというような附けあがりから、水がほしいの、梅干が食いたいのと言ったわけではないにきまっている。贅沢三昧《ぜんたくざんまい》ではない、生命の必須の要求なんでしょうが、気の立ちきっているお角には、それがそうは受取れないで、一口に、附け上りの、恥知らずの、図々しさが癪にさわり、衆人環視の前でピシャリと一つ食らわせたから、見ているほどの者が、あっと驚いてしまいました。
 そうしている間にお角は、がんりき[#「がんりき」に傍点]を、遮二無二《しゃにむに》、自分の乗って来た駕籠の中におっぺし込んでしまいました。

         十一

 暮れ行く海をながめて立つ清澄の茂太郎は、即興の歌をうたいました。
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古《いにし》への人に我ありと
近江《あふみ》の国の……
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 これは、いつもながらの出任せであります。ひとたび、耳か
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