を巻いているところを見れば、もう相当にこの店とは熟していて、木戸御免に振舞うだけの特権があるもののように見える。やがて七兵衛は、ズルズルと革の袋を一つひっぱり出して、その中へ手を差入れて、まず取り出したのがきせる[#「きせる」に傍点]と、煙草入。
それを目の子勘定のように食卓の上に置き並べ、次に取り出したのが新しい摺付木《マッチ》であります。
「ああ、摺付木、これだ、これだ」
とほくそ笑みして、その箱を押して、一本のマッチを摘《つま》み出し、食卓の上の金具に当ててシューッとすると、パッと火が出たからまぶしがり、あわててそれを煙管《きせる》にうつそうとしたが、あいにくまだ煙管には煙草が詰めてなかったものだから、大急ぎでその摺付木を火鉢の灰の中へ立て、あわただしく煙管へ煙草をつめて、その燃え残りの火にあてがい、大急ぎで一ぷくを試みて、その煙を輪に吹いて、大納まりに納まりました。
「重宝《ちょうほう》なもんだて。どうしてまた毛唐《けとう》は、こんなことにかけては、こうも器用なんだろう。これを使っちゃ、燧石《ひうちいし》なんぞはお荷物でたまらねえ」
七兵衛は、今更のように、マッチの便利重宝
前へ
次へ
全251ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング