ました。ナゼならば、彼等はいずれも一生懸命で、鳴り[#「鳴り」に傍点]をしずめ、息をこらして、忍び込んでいるつもりではあるが、そのあたりの空気を動揺させること夥《おびただ》しい。
 番人がなまけているからいいようなものの、気の利《き》いた奴に見つかった日にはたまらない。ああして下りて来るところを待構えていれば、子供でもあの四人をうって取れる……素人《しろうと》だな。気の毒なものだな。
 しかし、素人にしては、あのいでたちの本格。忍びの者として寸分すきのない、たしかにすおう[#「すおう」に傍点]染の手拭で顔をつつみ、ぴったりと身につく着込《きこみ》を着て、筒袖、長い下げ緒の短い刀、丸ぐけの輪帯、半股引、わらじ。
 こういったようないでたち[#「いでたち」に傍点]は、かいなで[#「かいなで」に傍点]の町泥棒にはやれない。
 そこで七兵衛は、引続いて判断を加えてしまいました。
 これは物とりに江戸城へ入り込んだのではない。他に重大なる目的あって来たのだ。四人とも、いずれも武士階級に属するもので、潜入者としては素人だが、忍びの術において、相当の知識と経験とを教えられ、その一夜学問で、この冒険を
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