ている者がある。
以ての外と七兵衛が、暗いところでその眼をみはりました。
生憎《あいにく》のことか、幸いか、七兵衛の眼は、暗中で物を見得るように慣らされていますから、今しも塀を乗越えて来る曲者《くせもの》。それは自分以上か、以下か知らないが、とにかく、このお城の中へ潜入した曲者を、別に眼の前に見ていることは確かです。
そこで、さすがの七兵衛も固唾《かたず》を呑んで、その心憎い同業者(?)の手並を見てやろうという気になりました。
見ているうちに、七兵衛はほほえみました。これはおれより手際《てぎわ》が少しまずい、まあ素人《しろうと》に近い部類だわい――と思いました。
だが、人数は自分より多く、いでたちもおれよりは本格だわい、と思いました。
たしかにその通り、今しも、吹上の庭から塀を乗越えたのは、都合四人づれだということが明らかにわかり、その四人づれが、とにかく、本格らしい甲賀流の忍びの者のよそおいをしていることによって、やはり尋常一様の盗賊ではあるまいと鑑定される。
さりながら、その忍入りの技術は、甚《はなは》だ幼稚なものだ――と七兵衛は、それを憐《あわ》れむような気にもなり
前へ
次へ
全251ページ中62ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング