けれども、また一方からいうと、今の主膳は、もう、それをさまでやきもきとはしていないようです。もう今までに、金で遊べるところでは大抵遊びつくしているし、金で自由になる女はたいてい自由にしているし、金に渇《かつ》えている時分にこそ、金があったらひとつ昔の壮遊を試みて、紅燈緑酒の間《かん》に思うさま耽溺《たんでき》してみよう、なんぞと謀叛気《むほんぎ》も起らないではなかったが、金が出来てみると、そんな慾望がかえって鎮静し、紅燈とやらにこの傷をさらし、緑酒というものにこの腸《はらわた》を腐らせるような遊びが、古くて、そうして甘いものだという気になって、額を撫でながら、ニヤリニヤリと笑いました。
同時に、ここに集まったたのもしい旧友とても、同じような経験に生きている連中で、もう一通りの遊び方ではたんのう[#「たんのう」に傍点]ができないし、遊ばれる方でも、こういった悪ずれのお客様は、あんまりたんのう[#「たんのう」に傍点]したくないということになっている。
主膳は自分で、乱に至らない程度の酒を加減しいしい飲みながら、一座に向って、自分の胸底にひめていた新しい計画を、ソロソロとうちあけて、連中
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