の全部を、惜気もなく提供したところから来る景気で、これがあるゆえに、ばけもの屋敷に、一陽来復の春来れりとぞ思わるる。
この黄金の光で、ばけもの屋敷がいとど色めいてきたのみならず、この光によって、いずくよりともなく、頼もしい旧友が集まって来たことも不思議ではありません。
ある夕べ、主膳は、このたのもしい旧友の頭を五つばかり揃えて、悠然《ゆうぜん》としてうそぶきました、
「黄金多からざれば、交り深からず」
七兵衛が苦心して――資本《もとで》いらずとはいえ、あれだけ集めるの苦心は、資本をかけて集めること以上かも知れません――集めた古金銀の年代別の標本も、神尾らにとっては標本としての興味ではなく、実用(実は乱用)としての有難味以上には何もないのですから、早くもその古金銀は、最も実用に適する種類のぜに金[#「ぜに金」に傍点]に換えられて、当分は、それを崩し使いというボロい目を見ることができます。
しかし、そこにはまた相当の用心もあって、このまま両替しては、かえって世間の疑惑を引き易《やす》いと思わるるものは、そのままで筐底《きょうてい》深くしまって置いて、後日の楽しみに残すこととしました
前へ
次へ
全251ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング