》の武者修行の先生が、意気揚々として、大手を振って通ると、例の姫の井のところで、ふいにでっくわしたのは、蛇《じゃ》の目の傘をさした、透きとおるほどの美人であったということですから、聞いていた雲衲《うんのう》も固唾《かたず》をのみました。
武者修行も、実は、そこで度胆《どぎも》を抜かれたということであります。
第一、前にもいった通りの青天白日の下に、蛇の目の傘をさして来るということが意表でありますのに、どこを見ても連れらしい者は一人もなく、悠々閑々《ゆうゆうかんかん》として、六千尺の高原の萱戸《かやと》の中を、女が一人歩きして来るのですから、これは、山賊、猛獣、毒蛇の出現よりは、武者修行にとっては、意表外だったというのも聞えないではありません。
また、どうしても、細い萱戸の路で、摺《す》れちがわなければ通れません。
ところが右の蛇の目の美人は、あえて武者修行のために道を譲ろうともせずに、にっこりと笑って、自分を流し目に見たものですから、武者修行が再びゾッとしました。
こいつ、妖怪変化《ようかいへんげ》! と心得たものの、やにわに斬って捨てるのも、うろたえたようで大人げない。一番
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