屋の中をしげしげと見廻しました。
 そうして、余物には眼もくれず、釜や、鍋や、どんぶりや、お鉢や、皿や、重箱の類、あらゆる食器という食器の蓋《ふた》を取って見たり、のぞいて見たりしたが、やがて一方の食卓の前に腰をおろすと、そこらにありとあらゆる食物を掻《か》き集め、皿にもり上げ、さじを取って食いはじめました。
 この際、この闖入者の風貌を篤《とく》と見ると、眼が碧《あお》で、ひげの赤い異国人でありました。
 田山白雲よりもいっそう肥大な形に、ボロボロになった古服とズボンをつけた、マドロス風の異国人であります。
 どこの国の異国人だか、それは一向にわからないが、西洋種であり、マドロス風であり、乞食じみていることは、一見、争うべからざるのみならず、ガツガツ飢えきって、多分、一飯の恵みにあずかろうとしてここへ来て、ツイ出来心で、食物にカジリついたものであることはその挙動でもわかる。要するに、闖入者ではあるが強盗ではない。乞食を目的として来たものだろうが、乞食を職業としているものではあるまい。
 流れ流れて来た流浪人としても、陸上からは、こんなのが流れて来るはずがない。太平洋の上を一人で流れて
前へ 次へ
全251ページ中154ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング