『お前さんの顔は、可愛ゆい、邪気《つみ》のない顔でしたが、このごろ、陰気になってきました。こんなところにいると、死にたくなりますから、こっちへおいでなさい』
といって神主様は、わたしの手を取って、ズンズンと鐙小屋の方へ引っぱって行きました。
弁信さん――
それから、わたしはあの神主さんに伴われて、鐙小屋まで参りましたが、すべてが、なんという陽気なことでしょう。
あの神主さまの顔は、かがやくばかりです。といっても、神様のように神々《こうごう》しく、近寄り難いかがやきではなく、人間が始終、何かに満足しながらいきているようなかがやきであります。
わたしを離れ岩の上から引きつれて行った手の温かいこと、こんな寒いところに、ひとり行《ぎょう》をしているとは思われませんでした。
炉へ火をたいて、わたしを温まらせながら、わたしの顔を見て、にっこりと笑った眼の細い、頬のたっぷりとした、蔭や、毒というものの微塵《みじん》も見えないあの面立《おもだ》ち。活《い》きた福の神様というのが、これだろうと、つくづく、わたしはその時に感心致しました。
しかし、この福の神様は、俵もたくわえていないし、金銭も持ってはい
前へ
次へ
全251ページ中130ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング