ず、あんまり薄情で、あんまり手強いから、わたしもツイツイつり込まれて、反抗の気味になりました。
『ようござんすよ……自分のした罪は、自分で背負いますから』
と、わたしも自暴《やけ》の気味でそう言いますと、姉は一層こわい目をして、
『生意気なことをお言いなさい、お前のような世間知らずに、どうして、自分のした罪が背負いきれます……』
『ようござんす、姉さんのお世話にはなりませんから』
『誰もお前の世話をして上げるとは言わないよ……立派に一人[#「一人」は底本では「一り」]でその始末をしてごらん』
『しますとも、わたしは、自分の知らないでした罪は、どこまでも自分で背負いきって、人様に御迷惑はかけませんから……』
『いたずら者……』
『いつ、わたしがいたずらを致しました、わたしは、誰かのように、夫を持ちながら、二人も、三人も、ほかの人を愛するようなことは致しませんから……』
『何をお言いだえ、お前、もう一度いってごらん』
姉はつかみかかるような勢いで、わたしに向って来ました。そうして、わたしの髪の毛を引据えて、さんざんに打ちました。
わたしは姉のするままにまかせて、少しも争わないで、ぶつだけぶたれておりましたが……どうしたのでしょう、そのぶたれるのが、何ともいえないいい心持でありました。

弁信さん――
それから、わたしはもういっそ、なにもかも許してしまおうかという気になりました。
姉が、あれほど手づよく、わたしを疑ったり、責めたりしなければ、わたしも、こんなに度胸を据えるようにはならなかったかも知れません。
妊娠なら妊娠でかまわない。身持になったら身持になったまでのことよ……こんなことを、平気で書いているわたしの顔は、悪魔が手を延ばして、何かの色に塗りつぶしているのかも知れません。

弁信さん――
わたしの処女性は失われました。
少なくとも、こんなことを平気で書いていられるほどに、わたしの娘心はすさびました。これが自暴《やけ》というものでしょうか知ら……自暴ならば自暴でかまいません。
もし、わたしのこの身持が本当のことでしたら、もう、わたしの行く道は、自暴《やけ》よりほかにないではありませんか。
 その道がありましたら、弁信さん、教えて下さい。
昨日の手紙に、わたしは死んでしまいたいと書きましたが、今思い返してみると、死んでも死にきれません。
ああ、今もこのわたしのお腹の
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