らい?」
 訊ねてみると、どちらが迷い子だかわかりません。迷い子は年の頃五十を越したお医者さん。それを尋ね廻っている御当人は、子供だか、大人だか、ちょっとは見当がつかない。
 峠の町の人は暫く呆《あき》れて見えましたが、それでも要領を得てみれば、この一種異様な迷い子さがしに多少の同情を持たないわけにはゆかないし、最初、藪《やぶ》から棒に、先生はどうしたと詰問されて相手にしなかった家々の者まで、本気になって、その求むる迷い子についての知識を、寄せ集めてくれました。
 その言うところによると、たしかに米友のいう通りの人相骨柄《にんそうこつがら》の人が、力餅を二百文だけ買って竹の皮に包ませ、蝋燭《ろうそく》を二丁買って懐ろへ入れ、さてその次の酒屋へ来ると、急に気が大きくなって、雲助を相手に気焔を吐いていたことまではわかったが、それから先が雲をつかむようです。
 そこへ、ひょっこりと現われた一人の雲助が、
「ナンダ、その先生か。そんならうん[#「うん」に傍点]州が駕籠《かご》に乗って、いい心持で鼾《いびき》をかいてござったあ。今時分は軽井沢の桝形《ますがた》の茶屋あたりで、女郎衆にいじめられて
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