人気を占めていました。ついでにお気の毒ながら、その時分の下郎共の口の端《は》にのぼった悪《にく》まれ唄を紹介すると、
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人の悪いのは鍋島薩摩、暮六ツ泊りの七ツ立ち
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というのがその一つ。
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お国は大和の郡山《こおりやま》、お高は十と五万石、茶代がたった二百文
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というのもその一つ。
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銭は内藤|豊後守《ぶんごのかみ》、袖からぼろが下り藤
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というのもその一つ。
その他、参覲交代《さんきんこうたい》の大名という大名で、この下郎共の口の端にかかって完膚《かんぷ》のあるのはないが、百万石、加賀様だけは別扱いになって、さのみ悪評が残らない――
だから、宇治山田の米友が、一途《いちず》に加賀守の横暴を憤《いきどお》り出したのは、筋違いでした。
けれども、唇がワナワナと慄《ふる》えて、杖槍を握る手と腕が、ムズムズと鳴り出したのは、どのみち、相手が相手だから……という武者振いの類《たぐい》です。
驀進《まっしぐら》に――但し、跛足《びっこ》を引いて、夕暮の
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