どものやることですから、この辺がまあ精一杯ですね」
「その辺で結構ですよ、どうも御親切に済みません。御親切ついでにどうでしょう、そのお金をそっくり、わたしに貸して下さるわけにはゆきますまいか」
「お貸し申すつもりで出したお金ではございません、家を建てて、あなた様を住まわせてお上げ申したいためのお金でございます」
「同じことじゃありませんか、どのみち、わたしのために都合して下さる御親切なお金なら、そっくり貸して下すっても同じことでしょう」
「なるほど、御融通する以上は同じようなものですけれど、家屋敷としてお貸し申せば目に見えますけれど、ただお貸し申したんでは目に見えませんからな、そこにはそれ、抵当というものがありませんと」
「野暮《やぼ》なことをいうじゃありませんか、抵当を上げて順当に借りる位なら、何もお前から借りようとはしませんよ」
「これは恐れ入りましたね、わっしどものお金に限って抵当はいらない、ただ貸せとこうおっしゃるんでございますか」
「お気の毒さま、今の身分では、逆さ[#「逆さ」に傍点]に振っても抵当の品なんぞはありませんからね」
「無いとおっしゃるのは嘘です、嘘でなければお気がつかれないのです。お絹様、あなたは、ちゃんと、その抵当を持っておいでになりますよ」
「え……わたしの今の身で、大金を借り出す抵当がどこにあると思うの」
「ありますともさ、つまり、あなた様の身体《からだ》一つが、立派な抵当になるじゃございませんかね」
「おや、お前は変なことをお言いだね」
「ずいぶん、世間にないことじゃなかろうと心得ます」
「ばかにおしでない、身体を抵当にお金を借りるのは、世間でいう身売りの沙汰《さた》じゃないか、痩《や》せても、枯れても、まだ勤め奉公をするまでには落ちないよ」
「そう悪く取ってしまっちゃ困るじゃありませんか、いつお前様に身売りをお薦《すす》めした者があります、よしんば身売りをお薦め申したところで、失礼ながら、御容貌《ごきりょう》は別として、あなたのお歳では、判人《はんにん》が承知を致しますまい」
お絹は怫然《むっ》として、
「冗談も休み休み言わないと、罰《ばち》が当りますよ」
「どうも相済みません」
「お前たち、百姓の分際で……」
「まことに相済みません、あなた様は御先代の神尾主膳様|御寵愛《ごちょうあい》のお部屋様、とはいえ、金銭は別物でございますから、たとえ、どなた様に致せ、抵当が無くて、金銭を御用立て申すというわけには参りません、お気に障《さわ》ったら御免下さいまし」
七兵衛はそういいながら、後ろの壁に押付けてあった鎧櫃《よろいびつ》を引き出して来ました。いつの間にか、お賽銭箱《さいせんばこ》が鎧櫃にかわっている。それを引き出して来た七兵衛は、並べた金銀の包みを、次から次へとこの鎧櫃の中へ蔵《しま》いはじめました。
お絹は、その手つきを冷笑気分で見ていましたが、そう思って見るせいか、七兵衛の金を蔵う手つきまでが堪らなく気障《きざ》です。
「恐れ入りますが、そいつをひとつ……その見本をこっちへお返しなすっていただきましょう」
ふいと気がついたように七兵衛は、お絹に向って最初に提示した慶長小判をはじめ、見本の金銀を、お絹の手元まで受取りに出ました。
「持っておいで」
お絹は脇息《きょうそく》の上から、ザラリと金銀の見本を投げ出しました。
それをいちいち御丁寧に拾い上げた七兵衛、
「あああ、私という人間が、こんなに金を蓄えて何にするつもりなんでしょう、気の知れない話さ、女房子供があるわけじゃなし、妾《めかけ》、てかけを置いて栄耀《えいよう》しようというわけじゃなし、これがまあ本当に宝の持腐れというやつかも知れませんが、金というやつは皮肉なやつで、欲しくないところへは無暗に廻って来るし、欲しいと思うところへは見向きもしない……」
「知らないよ」
お絹が横を向きました。
「だが、金というやつは、有って邪魔になる奴じゃなし、そばへ置いとくと、いよいよ可愛くなる奴だが、足が早いんで困ります、金銭のことをお足とは、よくいったものさ、捉まえたと思うと、逃げ出したがる奴で、よく世間で、可愛いい子には旅をさせろというが、この息子ばかりは、野放しにしておいた日には締りがつかねえ」
といいながら、七兵衛は、一つ一つ金包を鎧櫃《よろいびつ》の中へ納めます。
「文句をいわないで蔵ったらいいでしょう」
「はいはい」
「どんなに困ったって、わたしは自分の身体《からだ》を抵当にして、お金を貸せなんて決していわないから」
「左様でございましょうとも」
「けがらわしい、早くお蔵いよ」
「これだけの数でございますから、そうは手ッ取り早くは参りません、小さくとも六百坪の地面に、三十坪の一戸だて、火事で焼いたって一晩はかかりますよ」
「い
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