引いていますから、この一行は、存分に広い座敷を占領することができ、どっしり[#「どっしり」に傍点]と落着いて、ほとんど[#「ほとんど」に傍点]わが家へ帰った心になりました。
ことに、竜之助はここへ着くと、まず第一に、「これから充分眠れる」という感じで安心しました。
これから思う存分に眠るのだ、大地のくぼむほど寝つくのだ、という慾望が何よりも先にこの人の心に起ったのは、今まで身を労することは少なかったとはいえ、その生涯は、ほとんど[#「ほとんど」に傍点]波に任せてただようと同じことの生涯で、夜半夢破れた時は、いつも枕の下に波の声を聞かぬこととてはない。聞くところによれば、ここは飛騨と信濃の境、晩秋より初春まで、住む人もなき家を釘づけにして里へ帰るのだと。恰《あたか》もよし、これからようやくその無人の冬が来るのである。三冬の間をじっくり[#「じっくり」に傍点]と落着いて、ここで飽くまで眠り通すに何の妨げがある。
竜之助は、その以前は眠ることを怖れたものです。眠ることを怖れたのではない、眠って夢を見ることを怖れましたが、今はそうではありません。
このごろになって、はじめて夢を見ること
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