の快楽が、少しずつ身にしみて来たようです。
 四境|閑《かん》にして呼吸の蜜よりも甘い時、恍惚《こうこつ》として夢路に迷い入るの快味を味わうものにとっては、この世の歓楽などは物の数ではないとのこと。
 またいう、夢の三昧《さんまい》に入る人は、必ずしも眠ってのみ夢を見るのではない、身を横にして眼をとざせば、雲煙がおのずからにして直前に飛び、神仙が脱化《だつげ》して人間界に下りて来るとのこと。
 今、竜之助は、夢みることに新しい生活を見出し得たかのように夢みていると、お雪が、竜之助の枕もとへ、本を二三冊たずさえてやって来て、
「先生、お退屈でしょう、本を読んでお聞かせしましょうか」
「どうぞ」
と竜之助が夢を現実に振向けると、お雪が、
「王昭君物語という本ですよ。王昭君、御存じでしょう、支那の美人……」
と言って、その本を竜之助の前、行燈《あんどん》の下でくりひろげました。
 お雪は本を読むことが、なかなか達者です。これは支那の物語を、だれか日本文に作り直した物語です。けれどもお雪は、その中に挟まれている漢文や、漢詩まで、苦もなく読みくだくので、竜之助がおどろいているくらいです。お雪にな
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