直にいちいち応接して、酔わされたような咏嘆《えいたん》をつづけているのはお雪ちゃんばかりで、久助は馬方と山方《やまかた》の話に余念がなく、竜之助は木の小枝を取って、折々あたりを払うのは、虫を逐《お》うのかも知れません。
「大きな山……」
檜峠のおり道で、お雪が眼をあげてながめたのは硫黄《いおう》ヶ岳《たけ》です。
「いつも地獄のように火をふいている焼ヶ岳というものが、あの向うにありますよ」
久助が説明しました。
五彩絢爛たる島々谷の風光の美にうたれたお雪は、風相|鬼《おに》の如き焼ヶ岳をながめて、はじめて多少の恐怖に打たれました。
「火を吹いているんですか?」
「あれごらんなさい、あのむらむらしているのは雲じゃありません、みんな山からふき出した煙ですよ。焼ヶ岳の頭は、人間ならば髪の毛が蛇になってのぼるように、幾筋も幾筋もの煙が巻きのぼっています」
「そうして、白骨《しらほね》のお湯はその下にあるのですか」
やがて白骨の温泉場に着いて、顧みて小梨平《こきなしだいら》をながめた時は、お雪もその明媚《めいび》な風景によって、さきほどの恐怖が消えてしまいました。
もう、客はおおかた
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