、庭を打通して見物のできるような仕組みです。
 さて、囃子方《はやしかた》の座がととのう。太鼓があり、鼓《つづみ》があり、笛があり、笙《しょう》、ひちりき[#「ひちりき」に傍点]の類までが備わっている。
 そうして、花やかな衣裳をつけて、この十数人が、われ劣らじと踊り出でました。
 この踊りは、一種異様なる見物《みもの》であります。古代の雅楽《ががく》の如く、中世の幸若《こうわか》に似たところもあり、衣裳には能狂言のままを用いたようでもある。
 それに、不思議なのは、一人一役がみな独立して、個々別々に踊っているので、時代と人物には頓着なく、翁《おきな》のとなりに猩々《しょうじょう》があり、猩々のうしろには頼政《よりまさ》が出没しているという有様で、場面の事件と人物には、更に統一というものはないが、拍子《ひょうし》だけはピッタリ合って、おのおの力いっぱいにその個性を発揮して踊りぬいていることです。
 薩摩屋敷のものは、このめざましい見物《みもの》を見せられて盛んによろこびましたが、何ものの特志で、こうして不時に、われわれに目の正月をさせてくれるのだかわからないものが多かったのです。それか
前へ 次へ
全322ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング