ばならぬ役まわりになりました。
 豪傑連の説諭を聞き終った高村卿は、
「それでは要するに、飛騨の国を取ることに助力ができないというのじゃな。それは意見の相違でぜひもないが、そちたち、勤王《きんのう》を名として、私藩の手先をつとむるような振舞があってはならぬぞ、幕府を倒して、第二の幕府を作るようなことになっては相済まぬぞ」
といってのけ、彼等がなおも弁明をしようとするのを聞かず、意見の合わぬところに助力の望みなし、助力の望みなきところに長居するの必要なし、直ちに帰るといい出しました。
 帰るといい出した英気風発の貴公子は、誰が留めても留まりそうもない。
 十数人のお神楽師《かぐらし》を差図して、荷物をまとめさせたが、ふと膝を打って、
「せっかくのみやげに羅陵王《らりょうおう》を舞うて見せようか、皆々おどれ」
と言い出でました。
 そこで、いったん、包みかけた荷物はほどいて、これらのお神楽師が薩摩屋敷の大広間で、腕をすぐって踊るから、志のあるほどのものは、小者《こもの》端女《はしため》に至るまで、来って見よとのことであります。特に舞台は設けないが、隔てを取払って、縁に居溢《いあふ》れた時は
前へ 次へ
全322ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング