かしいといって、みかえるほどのものが笑います。
「やあ、チンチクリンが通らあ……」
正直な子供たちは、わざわざ路次のうちから飛んで出て、米友の周囲にむらがるのです。
そのたびごとに、米友に腹を立たせまいとする道庵の苦心も、並々ではありません。
「何でも米友様、旅に出たら、堪忍《かんにん》が第一だよ、腹の立つことも旅ではこらえつつ、言うべきことは後にことわれ……お前は頭がいいから、物の見さかいがなく、大名でも、馬方人足でもとっつかまえて、ポンポン理窟をいうが、あれがいけねえ、物言いを旅ではことに和《やわ》らげよ、理窟がましく声高《こわだか》にすな……というのはそこだて……」
しかし、米友とても、そう無茶に腹を立つわけのものでもなし、道庵とても好んで脱線をしたがるわけでもありませんから、町場を通り過ぎてしまえば、心にかかる雲もなく、道庵はいい気持で、太平楽《たいへいらく》を並べて歩きます。
太平楽を並べて歩きながらも道庵は、折々立ち止まって路傍の草や木の枝を折って、それをいい加減に小切《こぎ》っては束《たば》ねて歩きますから、米友が変に思いました。この先生は文字通りの道草を食って歩
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