ものやわ》らかな豆腐屋の隠居、義理固い炭薪屋《すみまきや》の大将といったような公民級をはじめとして、子分のデモ倉、プロ亀に至るまでがはしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]まわってみおくりに来ました。
しかし、これらの連中は、みな庚申塚でかえしてしまい、あとに残るのは先生と、同伴の宇治山田の米友と二人だけ。
「米友様」
と道庵先生が呼びかけると、
「うん」
と米友がこたえます。
道庵がしゃれ[#「しゃれ」に傍点]て褄折笠《つまおりがさ》に被布《ひふ》といういでたち[#「いでたち」に傍点]。米友は竹の笠をかぶり、例の素肌《すはだ》に盲目縞《めくらじま》一枚で、足のところへ申しわけのように脚絆《きゃはん》をくっつ[#「くっつ」に傍点]けたままです。二人ともに手頃の荷物を振分けにして肩にひっかけ、別に道庵は首に紐をかけて、一瓢《いっぴょう》を右の手で持ちそえている。米友は独流の杖槍。
「さて米友様、永《なが》の旅立ちというものは、まず最初二三日というところが大切でな……静かに足を踏み立ててな、草鞋《わらじ》のかげんをよく試みてな……そうしてなるべく度々休んで足を大切にすることだ」
「なるほど」
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