、一度はごらんになってお置きになるがよろしい、あれは新進の画家には登竜門になるのですから、あの別席へ陳列されるということは、画家にとってはなかなかの光栄なのですから、若い人たちが勉強します……勉強して、なかなかいいものを作ることがあります、その点だけは画界のためになりますが……」
と、いいながら田山白雲は、そのすぐれて長い刀をいじくりまわすところは、どう見ても塙団右衛門《ばんだんえもん》といったような形で、いやしくも絵筆をとるほどの人とは見えません。しかし、その話しぶりは、時弊を論じても、一概に意地悪くならないところに、やはり風流人らしい一面はあるようです。
「それからがいけないのです、自分の努力を、正直に人に見せている分には難はないのですがね……そのうちに、人の物を審査してみたくなる、これが間違いのもとです。二三回いいのを見せてくれたなと思っているうちに、いつのまにか大家になって、人の物の審査をやり出すのです、そうして後進に訓示をするような口吻《こうふん》を弄《ろう》するんですからいけませんや……それではトテも大物は出ませんね」
「そうでしょう、好んで人の師となるのはよくないことです
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