というまもなく、賭場《とば》を根柢から覆《くつが》えしてしまいました。
さしもの遊民どもが手出しができないのみならず、あいた口がふさが[#「ふさが」に傍点]らないのは、その荒《あ》れっぷりの乱暴と迅速とのみならず、六尺豊かの髯面《ひげづら》の大男の、威勢そのものに呑まれてしまったからです。
といってこの六尺豊かの髯面の大男、そのものの人体《にんてい》がまた甚だ疑問で、相手を向うに廻して荒れていなければ、これが無頼漢《ぶらいかん》の仲間の兄貴株であろうと見るに相違ない。そうでなければ、船頭仲間の持余し者と見たであろう。しかし、よく見ると、無頼漢でもなければ、船頭仲間の持余し者でもない、れっき[#「れっき」に傍点]としたこの乗合船のお客様の一人で、身なりこそ無頼漢まがいの粗野な風采をしているが、寝ていたところをよくごらんなさい、両刀が置きっぱなしにしてあるのです。しかもその長い方の刀は、人の目をおどろかすほどすぐれて長いものです。
それですから、さしもの遊民どもも、一層おそれをなしました。
「人の安眠を妨害する奴等、船底へ引込んで神妙にしとれ[#「しとれ」に傍点]」
中盆と壺振の二
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