であるところに、彼等の軽侮のつけ[#「つけ」に傍点]目がある。そうして見廻したところ、相手は一人であるのに、自分たちは血をすすった一味徒党でかたまっている。こいつ[#「こいつ」に傍点]一人を袋だたきにして、海の中へたたき込むには、何の雑作《ぞうさ》もないと思ったから、多少、事を分けるはずの貸元も、中盆《なかぼん》も、気が荒くなって、
「何がどうしたんだって――人の楽しみにケチをつける奴は殴《なぐ》っちまえ」
「殴っちまえ」
風雲実に急です。駒井もこうなっては引込めない……かえすがえすも、米友ならば面白いが、駒井では痛ましい。
その時、帆柱のかげからムックリとはね起きた六尺ゆたかの壮漢、
「こいつら、ふざけや[#「ふざけや」に傍点]がって……」
盆ゴザも、場銭も、火鉢も、煙草も、手あたり次第に取って海へ投げ込む大荒《おおあ》れの勇者が現われました。
七
これほどの勇者が、今までどこに隠れていたか、駒井も気がつかなかったが、乗組みの者、誰も気がついていなかったようです。
不意に飛び出したこの六尺豊かの壮漢が、痛快というよりは乱暴極まる荒《あ》れ方をして、あっ
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