ろ、かりにも士分の列につらなっている身分のものは、自分のほかにはいないらしい。万一の場合、義において自分が、船内の平和を保つ役目を引受けなければならないのか、とそれが心がかりになりました。その時分、勝負がついたと見えて、船の上はひっくりかえるほどの騒ぎです。
こういう場合の役まわりは、宇治山田の米友ならば適任かも知れないが、駒井甚三郎ではあまりに痛々しい。
それを知らないで、調子づいた遊民どもは、全船をわが物顔に熱興している。
彼等が、熱興だけならば、まだ我慢もできるが、船中の心あるものを迷惑がらせるのみならず、その善良な分子をも、この不良戯《ふりょうぎ》のうちへ引込まずにはおかないのが危険千万です。
いわゆる良民のうちにも、下地《したじ》が好きで、意志がさのみ強くないものもあります。見ているうちに乗気になって、鋸山《のこぎりやま》へ石を仕切《しきり》に行く資本《もとで》を投げ出すものがないとはかぎらない。くろうと[#「くろうと」に傍点]の遊民どもも、実はそのわな[#「わな」に傍点]を仕掛けて待っている。
「へ、へ、へ、丁半は采《さい》コロにかぎるて、なぐささい[#「なぐささい
前へ
次へ
全322ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング