えると、神主が、
「トテモのことに、室堂の清水まで行って御覧になってはいかがです、これどころじゃありません……それから一万尺の権現のお池へ行って、神代ながらの雪水をむすんでそれを眼にしめして、朝な朝なの御陽光を受けてごらんなさい、癒《なお》りますよ」
「御陽光というのは何だね」
「朝日権現のお光のことでございます、黒住宗忠様が天地生き通しということをおっしゃいましたのを御存じでしょう」
「知らない」
「三月の十九日に、宗忠様は、もう九死一生の重態の時に、人に助けられて、湯浴《ゆあみ》をして、衣裳を改めて、御陽光をお拝みになりましたから、家の人たちは、もうこの世のお暇乞《いとまご》いを申し上げるのだろうと思っていましたところが、御陽光が宗忠様の胸いっぱいになって、それより朝日に霜の消えるが如く、さしもの難病がことごとく御平癒になりました」
「ははあ」
「久米の南条の赤木忠春様は、二十二歳の時に両眼の明を失いましたけれど、宗忠様の御陽光を受けてそれが癒りましたよ」
「ははあ」
「御陽光に背《そむ》いてのびる人間はなし、御陽光を受けて癒らぬ病人というのはございません……まあ、一度、この乗鞍ヶ
前へ 次へ
全322ページ中298ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング