危ない目に逢うか知れたものじゃありません」
「ははあ……」
竜之助はそれを聞き流しながら、
「お前さんなんぞは、かっぷくがいいから、そのかっぷくで敵を押しつぶしてしまったら、たいがいの男はつぶれてしまうでしょう」
「御冗談《ごじょうだん》を……」
後家さんは、まじめに取合われないのを、ちょっとすねてみましたが、
「ねえ、先生」
暫くして、また改まったように、甘えた口調《くちょう》で呼びかけました。
「ねえ、先生、あなたは人を殺したことがおありなさる?」
後家さんの肪《あぶら》ぎった面《かお》に、小さい銀色の粒が浮いて来ました。
「何ですって?」
竜之助は、わざと聞き耳を立てました。
「先生、あなたは人を殺したことがおありなさるでしょう」
「どうして、そんなことを聞くのです」
「でも……」
ちょうど、道が沼の岸を離れて林の中に入る時分に、後家婆さんは、後ろの方をそっと顧みて、
「それでも、人を殺してみないと、度胸が定まらないっていうじゃありませんか」
「そんなはずはあるまい、人を殺さなくても天性度胸のいい者はいい、臆気《おくびょう》な奴が、かえって大事をしでかすこともあるもの
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