さ」
「それはそうでしょう。けれどいちど、人を殺すと、それから毒を食《くら》えば皿までという気になって、腹が出来るというじゃありませんか」
「そうか知ら」
「真剣ですよ、先生、わたしは、真剣で先生にお話し申しもし、先生からお聞き申しもしたいものですから、この通り、話しながらも動悸《どうき》が高くなっているのですよ」
「そうかといって、おれは人を殺しました、と答える奴もあるまい」
「そうおっしゃられてしまえば、それまでですけれど、先生には、わたし、このことをお尋ねしてもいいと思っているから、それでお尋ねしているんですよ。つまり、わたしは、あなたは、たしかに人を殺しておいでなさると見込みをつけてしまったものですから、こんなことを臆面もなくお聞き申すんですが、あなたがお返事をして下さらなければ、わたしの方から白状してみましょうか。これでも、わたし、人殺しをしたことがありますのよ」
 こういって、後家さんは忙がしそうに、四方《あたり》を盗み見ましたけれど、そこは一鳥も鳴かぬ無人のさかいであります。
 強《し》いて人に物を問いかけるのは、必ず自分の身に相当の不安があるからであります。
「幾人!」
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