ってこちらを見ているのは、例の、飛騨の高山の穀屋《こくや》の後家さんであります。その声を聞くと、竜之助が身顫《みぶる》いをしました。今の悪戯《いたずら》はこいつだ。年甲斐《としがい》もない噪《はしゃ》ぎ方だ。
「ねえ、先生」
と言ってこの後家さんは、そろそろと少し高い所から下りて来て、なれなれしく話しかけました。竜之助を先生と呼ぶのは、お雪ちゃんにカブれたものでしょう。
「貴船様《きふねさま》の前まで出て見ますと、あなたのこちらへおいでになるのが、よく見えたものですから、急いで、あとを追っかけて参りましたよ」
竜之助のそば近く歩んで来るこの水っぽい後家さんは、よほど急いで来たと見えて、額のあたりに汗がにじみ、まだ息がせいせいしている。
誰にたのまれて、そう急いで来たのだ。
「ねえ、先生」
と後家さんは、いよいよなれなれしく近づいて来て、息を切り、
「今日はお一人ですか。鐙小屋《あぶみごや》へいらっしゃるのでしょう。留守ですよ、あそこは。神主様は室堂《むろどう》へ行って、おりません……ええ、先廻りをして見届けて参りました。この間はお雪ちゃんに手を引いていただいておいでになりましたのに
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