指が切れるようです、あたりまえの水の何倍つめたいことでしょう。後ろを振返ってごらんなさい、真白な山、あれが乗鞍ヶ岳ですとさ。先生、あなたは、あの山に登ってみたいとお思いにならない……お思いになっても駄目ですわね、あなたには登れませんから。あたし、女でも登ってみたいと思いますわ。今は、雪があって登れませんから、来年、雪が解けた時分には、きっと登ってみますわ。あのお山は一万尺からあるんですってね……木曾の御岳山とどちらかだっていうじゃありませんか。あなたは一万尺の山にお登りになったことがありますか。そらごらんなさい、この金剛杖にも『一万尺権現池』と焼印がおしてありますよ。ああいけませんでした、あなたにはおわかりにならない、あの高い山も、この綺麗な水も、金剛杖におされた焼印も……ほんとにお気の毒さまですね」
と言われたのはちょうど、このところです。
 山登りをする者が誰も携えて行く金剛杖、八角に削った五尺余りなのを、今日も竜之助は携えて来ました。
 ここは日当りがことによくて、風の当りも少ない。竜之助は目的の鐙小屋《あぶみごや》へ行くことを忘れて、暫くそこに立っていました。
 高山の麓《ふも
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