のかとう[#「かとう」に傍点]を見るように、眼ばかり出したものです。
四面はみな雪ですけれども、山ふところは小春日和《こはるびより》。
白樺や桂《かつら》の木の多いところをくぐり、ツガザクラ[#「ツガザクラ」に傍点]の生えたところをさまよい、渓流に逢っては石をたたいて見、丸木橋へ来ては暫くその尺度をうかがって、スルスルと渡りきり、雑草多きところでは衣裳を裾模様のように染め、ある時は呼吸せわしく、ある時は寛々《ゆるゆる》として、上りつ下りつして行きました。
このごろは、だいぶ身体《からだ》もよくなったせいでしょう、こうしているところを前から見ても、横から見ても、誰も病人と見る者はないほどに、姿勢もしゃん[#「しゃん」に傍点]としているし、カーヴの甚だ急に変ずるところでない限り、杖を使わないで歩いて行くところを見れば、誰も、これが盲目《めくら》の人だとはおもいますまい。
竜之助の、さして行かんとするところは小梨平に違いない。それより遠くへは冒険になるし、それより近いところには、たずねて行って見ようとするものもない。
小梨平には鐙小屋《あぶみごや》というのがありました。先日、竜之助
前へ
次へ
全322ページ中272ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング