おとこみょうり》の頂上だと、浅吉は、羨《うらや》ましくなりました。そこで勢い浅吉は、一人の後家さんから完全に圧服されてしまって、グウの音も出ない自分というものの意気地無さかげんに、軽少ながら憤りの心をさえ起してみました。
「私だって男だ」
という義憤がむかむかと湧き起ったのは、この男としては珍しいことです。といって、こういう男の義憤も、一概に軽んずるというわけにはゆきますまい。
「私だって男だ」
浅吉は、わくわくとして、ひとり憤りを発していましたが、まだ誰も帰って来ません。自分ひとり、腹を立っているのだということがわかりました。
三十
机竜之助はこの日、湯の宿を出て小梨平の方へ歩いて行きました。
かたばみの紋のついた黒の着流しのままで、頭と面《かお》は、頭巾《ずきん》ですっぽり[#「すっぽり」に傍点]とつつんではいるが、その頭巾なるものが、宗十郎というものでもなく、山岡でもなく、兜頭巾《かぶとずきん》でもなく、また山国でよく用うるかんぜん[#「かんぜん」に傍点]帽子というものでもなく、ただ、あたりまえの黒縮緬《くろちりめん》の女頭巾を、ぐるぐるとまいて山法師
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